
ふと、口にした味に、
涙がこぼれそうになることがあります。
それは、特別なごちそうではなくてもいいのです。
焼きおにぎりの香ばしさ、
卵焼きのちょっと甘いあと味、
お味噌汁の湯気と、白いごはんのやさしい湯気。
記憶の奥に、確かに息づいている“あの味”が、
今の自分と、かつての誰かをつないでくれる瞬間。
思い出の味とは、魂の記憶。
いちばん深いところで、大切な人とつながっている場所なのかもしれません。
味覚がよみがえらせる「ぬくもり」
料理の香りや味わいは、
言葉よりも早く、心の奥に届きます。
たとえば――
祖母の台所の匂い、
母の煮物の湯気、
父と囲んだ夜の食卓。
そのすべてが、忘れたはずの記憶をふわりと呼び起こし、
今もなお、生きている“魂の交流”として心にのこっているのです。
大切な人の手の感触まで伝えてくれる
あの人がどんな手つきで煮込んでいたか、
どんな音を立てながら炒めていたか、
食卓でどんなふうに器を並べてくれていたか――
思い出の味は、味覚だけでなく、
触覚、聴覚、視覚、そして感情までも一緒に運んできてくれます。
だからこそ、一口食べたとたん、
その人のぬくもりを、今ここで感じることができるのです。
「継ぐ」ということ
わたしたちは、日々の食事の中で、
無意識のうちに誰かの味を引き継いでいます。
同じレシピじゃなくても、
同じ器じゃなくても、
同じ時間に食べていなくても。
“味の記憶”を受け取ったということは、
魂の一部を大切に継いでいる、ということ。
それが、目に見えない「つながり」として、
今の自分を支えてくれているのだと思うのです。
最後に
忙しい毎日の中で、
なんとなくつくった料理が、
ふと誰かを思い出させてくれることがあります。
それはきっと、
その料理の中に、あの人の魂が、そっと息づいていたから。
思い出の味は、命を超えてめぐり続けるもの。
だからこそ今日も、
台所からやさしい記憶の光を、もう一度あたためていきましょう。
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